『ヒメアノ~ル』を観て感じた・森田剛の本質を捉える力

 

森田剛の演技は凄い」

お茶の間にはあまり浸透していませんが、過去に森田剛と関わった舞台関係の多くは、口を揃えてこう言います。

 

正直な話、私もV6のファンになるまでは「森田剛は舞台をしている人」くらいの認識で演技は一度も観たことなく、調べようとすらしていませんでした。

 

でも、改めて調べると、「世界のニナガワ」と呼ばれた演出家・蜷川幸雄氏が「1言えば100返ってくる」と絶賛するほどの人物。2010年に蜷川氏の舞台『血は立ったまま眠っている』に出演すると、2011年に宮本亜門氏の『金閣寺』の舞台にも抜擢。これを観に来た蜷川氏は「次は俺だよ」と直接オファーを出したといいます。 

 

世界的な演出家にそこまで言わせる森田剛の役者としての姿を観たい。そう思ったものの、知識がない人間にとって舞台は少しハードルが高い。となると、映画『ヒメアノ~ル』だが、如何せんサスペンスが苦手でずっと手が出せず.....。

 

でも、自粛期間も終えそうな5月最後に、「今しかない!」と意を決して観ることにしました。そしたら、案の定森田剛が演じる異常者の普通すぎる姿に引き込まれ、気付けば99分間ずっと緊迫状態で過ごすはめになりました。(心臓には絶対悪い)

 

※ネタバレを含みます。ちなみに役名は森田、中の人は森田剛表記で書いていきます

 

異常者のリアルな“普通”を演じる

 

『ヒメアノ~ル』は過激な内容で話題となった古谷実氏のコミックを実写映画化。公開時もジャニーズ主演作品にしては珍しくR-15指定となりました。

 

<あらすじ>
普通の生活に焦燥感を抱くビル清掃会社のパートタイマー岡田(濱田岳)は、同僚からカフェの店員ユカ(佐津川愛美)との恋の橋渡し役を頼まれる。彼女が働くカフェへと足を運んだ岡田は、高校時代の同級生・森田(森田剛)と再会。ユカから森田につけ狙われ、ストーキングに悩まされていると相談された岡田は、森田がかつていじめられていたことを思い出し、不安になるが……。(Yahoo!映画から引用 )

 

そんな狂人を演じたのは、アイドルグループV6の森田剛。前述したように舞台以外での露出は少なく、一般に役者としてのイメージが確立していない中での登用でした。

しかし、蓋を開けてみると「森田の演技がヤバイ」「本当に怖い」と映画ファンから業界関係者まで賞賛の嵐。森田剛の演技力を広く認知させる作品となったのです。

 

そんな映画を恐る恐る観た私でしたが、観終わった感想はたったひとこと。

「怖すぎる...」

恐怖以外の感情を失うほど、森田剛が演じる森田の狂人っぷりに気づけば目が離せなくなっていたのです。

 

何が森田を狂人にみせていたのか。

 

その最たる理由は、人を殺めること・人を傷つけることに無頓着である森田の姿です。予告のYouTubeでも流れているように銃で人を撃った後もあくまで普通に「いってぇ」と自らの手と耳を庇います。さらに、別の場面では人を殺した後に普通にカレーを食べている様子も描かれています。

 

その日常の中に殺人がある様子が異常であるにも関わらず、森田にとっては普通の日常に見えて、キャラクターの異常さを際立たせていました。

 

映画を観終わった後、当時のインタビューを読んでいると、森田剛自身がその表現について語っていました。

 

人を殺めているところを第三者に見られたときって険しい表情をしたくなると思うんですけど、なるべく関係ない表情をするようにしました。普通にお店に入っていって、「今日、やってますか?」みたいな感じで人を殺すというか、そういう気持ち悪さが出ればいいなと思ったし、普通の人だったら、「あっ、これ以上やったら危ないな」っていうところも、森田はわからないというか。ストップがきかない危なさを、監督も計算されていたと思います。

『ヒメアノ~ル』森田剛インタビュー

 

おそらく原作で森田はこうした人物として描かれているのでしょうが、森田剛がその異常さを普通に落とし込んで演技できること自体に彼の凄さが隠されているように思いました。

 

森田剛の演技力を語る上で印象的なシーンがあります。それは高校時代、森田が岡田に学校に連れてこられたときの教室での一コマ。岡田に向けられた目は蔑むような、憎しみを超えたおぞましいものを見るような。今思い出してもゾッとするものでした。

 

このとき直感で「この演技をできるのは森田剛しかいない」。そう思いました。

 

対して、温かい笑顔で演技力を見せた最後のシーン。猟奇的な殺人者の森田が、高校時代に戻ったかのような優しい表情とセリフに戻ります。

 

特に印象深かったのが、警察に捕まった際のラストシーンです。

 

「岡田くん、また遊びに来てね」

 

このセリフと共に岡田に向けられた笑顔は、穏やかで優しい少年の顔でした。90分以上も、森田の恐怖に胸を締め付けられていただけに、この笑顔が彼に隠された本来の姿に見え、「救い」のように感じました。

 

これほど振り幅のある演技力を一つの映画の中で見せてくれた森田剛。『ヒメアノ~ル』を観て、この人がなぜこれほどまで演技力に評価が集まるのかを少しだけ考えてみました。

 

「本質を捉える力」を持つ、森田剛という人物

 

『ヒメアノ~ル』を観た後にインタビューを読んで、さらにV6で森田剛のエピソードを聞くと、彼は「本質を捉える力」が強いように思いました。

 

森田剛は決して口数が多いわけではありません。V6や役者仲間と一緒にいるときは楽しそうに笑顔で接する姿はよく観ます。しかし、何かを決めなければいけないとき、重要な演出を考えるときは、みんなの会話の輪には入らず、そっとひとり考え事をしている姿も多く目にします。

 

そして、森田剛が口を開いた瞬間、皆がその発言に注意して聞く。V6メンバーも「剛がそうだというなら、間違いない」というほど、森田剛の判断には絶対的な信頼を置ける何かがあるのです。他のメンバーや役者が「確かに」と口を揃えていいそうな、誰も気づかないけど、大事なことを口にすることが多い。

 

それは先のインタビュー記事を読んでも同じです。監督が言わんとすること、監督が求めるこの内容は何のために言っているのか、その本質を捉える力が強いからこそ、人は森田剛の発言に注目するし、信頼を置くのではないかと思ったのです。

 

森田剛に発言の理由を聞くと、「ん、なんとなく」「なんかモヤモヤするんだよね」ということも多い気がします。森田剛自身が明確に言語化できるわけではなく、感覚で選べてしまう人間だからこそ、こう発言するのかもしれません。

 

ただ、その「なんとなく」の感性が異様に高い。この感性が森田剛が天才と呼ばれる所以なような気がしました。